鬼談百景 に~残穢とリンクする話はいくつあるか?

「鬼談百景」は小野不由美の掌編怪談集で、「残穢」と繋がりがあります。

「残穢」の中で作家である“私”は読者が体験した恐い話を募っており、寄せられた恐い話をまとめたものがこの「鬼談百景」である-という体になっています。

 

「鬼談百景」に収められている話は全部で99話。それに”私”が語る「残穢」を合わせると、百物語になるのだという―

つまり、「鬼談百景」と「残穢」は二つで一つなのです。

「残穢」についてはこちらで詳しく解説しておりますので、ぜひご一読ください。

小説版「残穢(ざんえ)」8つの謎に迫る! ※ネタバレあり

◎「残穢」とリンクする話

体験談形式で書かれた99話のうち、2話が「残穢」とリンクしています。

 

一つは、『お気に入り』。

岡谷マンション401号室に住む屋嶋さんの話だ。 

 屋嶋さんは、どうもこの部屋が好きになれなかった。  

 幼い娘が、部屋の中で何もない宙をじっと見つめていることがある。 

 また、時折、さーっと何かが床を撫でるような音がする。 

 この二つが同時に起きた時は、嫌な想像をしてゾッとしてしまうのだ。 

 

 ある日、娘がお気に入りのぬいぐるみの首に紐をかけ、「ぶらんこ」といって振り回している。 

 ーーそれはブランコじゃないでしょう 

とたしなめると、娘は何もない宙を指差して言った。 

 ーーぶらんこ 

 

屋嶋さんはこの手紙の三ヶ月後に引っ越しました。それ以降はもう例の音を聞くことも、娘が宙をじっと見つめることもなくなり、平穏に暮らすことが出来たようです。

 

 

 

もう一つの話は、「欄間」

北九州の奥山家から愛知県の米溪家の本家に移築された、欄間の話。その欄間越しに仏間を覗くと、地獄が見えるという。 

 米溪家の人間は、見ると良くないということで誰一人として覗いてみたことがないため、どのような光景が見えるのかは不明である。 

 しかし、“私”に手紙を送った米溪新氏は、かつて仏間の隣の部屋で「呻き声みたいなのが混じった地下鉄の風のような音」を聞いている。 

 また、新氏の従兄にあたる本家の息子が大学時代に住んでいた下宿には、“殺すなどと物騒なことを呟く黒い人影”が出たという。 

 これらの事象から察するに、欄間越しに見える地獄とは、奥山家の炭坑事故の犠牲者が蠢く姿か、事故そのものの光景だろう。 

 なお、米溪家自体はさほど呪いの影響は受けなかったようで、上記の下宿に住んでいた次男は早世したものの、他の家族は短命ということもなく、家が傾いたということもなかったらしい。 

 

 

明確にリンクしているのはこの2件だけのようですが、他にもなんとなく関連する話はあります。

 

「どろぼう」

子沢山の家の奥さんが、嬰児殺しをしたのではないか?という話。

中村美佐緒の話と繋がりそうに見えますが、美佐緒自身には“子沢山”という描写はなかったはず。

複数回出産した様子ですが、みな嬰児のうちに亡くなっていますので…。

 

「もう駄目だ」

有名な幽霊屋敷に肝試しに行った若者たちが、雨戸に貼られた御札を破ってしまい、帰りの車で事故を起こして運転者が死亡する話。

雨戸に張られたお札ということで、奥山家跡地の一つである真辺家かと思いましたが、この「もう駄目だ」の舞台は東京なので残念ながら違います。

中村美佐緒が逮捕された時に住んでいた家も後に心霊スポットと化しているので、そこである可能性もありますが、美佐緒に絡んだ怪異”赤ん坊の泣き声”が文中に出てこないので、断定できないのが惜しいところです。

 

◎様々な怖い話が楽しめる「鬼談百景」

残穢と併せて読むと二倍楽しめる鬼談百景ですが、残穢との繋がりがない話も十分楽しめます。

私が一番好きな話は「注意報」です。

『Oさんは夜中にふと目が覚めた。どこかで話し声がする。 

  階下のテレビの音だろうか? 

  その声はどこか緊張したような、あるいは切迫したような調子で、何かを必死に訴えているように思えた。 

  気になって、何と言っているのか耳を澄ませると、雨戸、と聞こえたような気がした。 

 

  雨戸……閉めないと。 

  雨戸を閉めろ。 

 

  ふいに雨戸が気になった。 

  Oさんはいつも雨戸を閉めないのだ。 

  カーテンを開け、窓を開けると、いつもの見慣れた光景が目に入った。 

  だが、何の音もしない。聞こえて当然の虫の声すらも。 

  不安になったOさんは急いで雨戸を閉めた。窓を閉めて鍵を掛け、カーテンを閉めると、声も止んだ。 

  ホッとして寝床に戻り、眠りに落ち始めた時――コトンという硬い音がした。 

  窓の方からだ。アルミ製の雨戸を叩く音。 

  やがて苛立ったノックのような音になり、ドンと拳で殴るような音になった。 

  雨戸を開けようとするかのように、表面を撫で回すような音や引っかく音も聞こえる。 

  Oさんは体を強張らせたまま雨戸の音に耳を済ませていた。音は二時間ばかり続いて消えたという。』 

 

こういう、“虫の知らせのようなもののおかげで、間一髪難を逃れる” という話は大好きです。もし雨戸を閉めなかったら、何が起こっていたのだろう?そう考えるとゾクゾクします。

深夜の来訪者(襲撃者?)は、果たして人だったのか、霊的なものだったのか。

なんとか開けられないかと、手掛かりを探し回っているところは人のように思えますが、最初にノックしてみたり、殴るような物音(深夜であれば相当響くはず)を二時間も続けているあたりは、どうも人のような気がしません。やはり何らかの良くない霊的なモノなのでしょうか。

それに対して、「雨戸を閉めろ」と警告してくれたのは明らかに人間ではありませんが、一体Oさんとどんな関わりのあるモノだったのでしょうか。

王道なところで、先祖や亡くなった親戚が守護霊になっていて助けようとした、というパターンが考えられます。

あるいはOさん自身の潜在意識が、危険を察知して警戒したものかもしれません。この場合、Oさんは警告を聴覚で捉えたと認識していますが、実際には自分の脳内で警告の送受信が起こったのでしょう。

◎余談 ~ 赤月の体験

「注意報」を読んで思い出したのですが、私も一度だけ、警告の声を聞いたことがあります。

私が中学生くらいの頃。当時住んでいた家は、2階の一番西の端に唯一の和室がありました。

子供の頃は、泊まりの来客の時だけ客間にするような場所で、普段は入らないように厳しく言われていました。しかし、そうそう泊り客があるわけでもないので、中学生くらいの頃には使っても良いことになり、時々その部屋で座椅子に座って本を読んだり楽器を弾いたりしていました。

その日は、確か本を読んでいたと思いますが、無性に眠くなったので座椅子の背もたれを斜めに倒し、うとうとしていました。

すると突然、「来たぞー!」という男性の声が。
ハッと目を覚ました私は、「そうだ、来たんだ!」と飛び起き、一拍置いて
「……来たって、なにが?」と首を傾げました。

その数秒後、ユラユラっと家が揺れました。地震です。

幸い、大きな地震ではなく、せいぜい震度2程度のものでしたが、それがかえって不思議でした。

なぜこの程度の弱い地震で、呼びかけがあったのか?

私が住む地域は、昔から地震が多いのですが、呼びかけられたのは後にも先にもそれ一度きりです。

もしかして、重要なのは震度ではなく、それが起こった時の私の状態にあったのでしょうか。

たとえば、ちょうど霊的な何者かが私の家を通り抜けるところで、意識のない無防備な状態では危険だった……なんてことがあった、かもしれません。

ちなみに、呼びかけてきた声は男性で、外で誰かが大声を出した時のような、物を隔てた少しこもった感じのする声でした。

イメージとしては、庭を隔てた向こうの家のご主人が叫んでいる、という感じです。

本当に隣人の声だったのか、見えざる何者かの声だったのか、自分の潜在意識が発する声だったのか。それは今でも謎です。

 

初出:2018年1月20日
再掲:2020年9月21日
赤月

赤月

幼少時代に小泉八雲の「怪談・奇談」や上田秋成の「雨月物語」を読み聞かせてもらってから怪談に興味を持ち、怪談・怪奇小説と中心としたオカルトの探求がライフワークになりました。 その他のオカルトでは、占いや世界のミステリーに興味があります。 サブスキルは絵描き。