【アナベル】―映画にもなった呪いの人形

 

呪いの人形、と聞いて、あなたはどんな人形を思い浮かべるでしょうか?

髪が伸びる日本人形?

ナイフを片手に襲ってくるチャッキー人形?

それとも、関わった人間に次々と災いをもたらす生き人形?

いずれにしても、“より人間に近い精巧な人形”をイメージするのではないでしょうか。

しかし、邪悪な存在は、媒体を選びません。

時には、可愛らしいぬいぐるみ人形が、悪霊の器になり得るのです。

 

ウォーレンズオカルトミュージアム
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アメリカのコネチカット州にある、ウォーレンズオカルトミュージアム。
超常現象研究家のウォーレン夫妻が、今まで調査した事件の“いわく付き”物品を展示しています。

その中の一つ、「アナベル」は、ラガディ・アンというキャラクター人形で、当初アナベル・ヒギンズという7歳の少女の霊が宿っていると言われたことからその名で呼ばれています。

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しかし、実はこの人形に宿っていたのは、幼くして亡くなった少女の霊ではなく、人形を操って人間に乗り移ろうと企む悪霊だったのです。

アナベルは、最初のうちは家のあちこちを勝手に移動したり、その家に置いていないはずの羊皮紙に鉛筆書きのメッセージを書いてみせるだけでした。

しかし、ある時アナベルの両手と椅子に、血の滴のような物が現れたため、霊媒師によって降霊会が開かれました。

そこで霊が語ったのが、アナベル・ヒギンズの物語です。

持ち主のドナはアナベルに同情し、自分やルームメイトのアンジーと一緒に住み続けることを許可してしまいました。

 

この頃から、アナベルは人に危害を加えるようになります。

ターゲットになったのは、ルーという男性でした。
ルーはドナとアンジーの仲の良い男友達で、当初からアナベルは良くない物だと感じており、早く人形を棄てるよう再三ドナに忠告していたのです。

そのルーが絞め殺されかけたり、体に獣のひっかき傷をつけられたことで、ドナもようやくアナベルに付いているのが悪霊かもしれないと気付きました。

 

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そこで、聖公会を通じて話を受けた超常現象研究家のエド&ウォーレンがアナベルを調査し、まず聖公会の神父によって家の浄化が行われました。そしてアナベルはウォーレン夫妻が引き取ることになったのです。

これでドナの家は安全になりましたが、アナベルにはまだ悪霊が取り憑いていました。

 

ウォーレン夫妻の記録によると、

“エドは後部座席に人形を置き、悪霊がまだ人形に潜んでいた場合に備えて、州連絡高速道路を使わないことにした”

その判断は間違っていませんでした。

“危険なカーブの度に、パワーステアリングとブレーキが効かなくなって車がそれ、立ち往生した。繰り返し、車は衝突しかかった”

エドが人形に聖水を浴びせて十字を切ると妨害は止み、以降は安全に帰路につくことができました。

 

アナベルは特殊なケースに収められた上で、ウォーレン夫妻が経営するオカルトミュージアムの中に置かれることになりました。それから現在に至るまで、アナベルが動き回ることはないそうですが、決して大人しくなった訳ではありません。

 

一度、若い男性がアナベルのケースを叩いて挑発したことがありましたが、彼は帰り道バイク事故で即死しました。同乗していたガールフレンドは生き残りましたが、一ヶ月入院する羽目になりました。彼女は「人形のことを笑っていたら、バイクのコントロールが効かなくなった」と話したそうです。

 

今でもアナベルは、「危険!触るな」と書かれたケースの中に座り、こちらを見つめています。

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★2020年5月1日追記

2018年頃、ゾーニングの関係で移転場所を探すまでの間、ミュージアムは閉鎖されていました。

しかし、夫のエド亡き後(2006年8月没)、ミュージアムを守っていた妻のロレインも2019年4月18日に亡くなったため、再開の見込みはなさそうです。アナベル達”いわく付き”の品々は、いったいどうなってしまうのでしょうか…?
このままミュージアムが放置されて、正真正銘のお化け屋敷になってしまうと洒落になりません。そうならないことを祈ります。

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<解説と考察>

◎ラガディ・アン人形とは

ラガディ・アンは、1915年に誕生したアメリカの国民的キャラクターで、当時絵本や抱き人形が発売されると大人気になったそうです。

日本でも「アンとアンディ」の名で絵本やキャラクター商品が売られていました。今でもこの絵柄の布地や雑貨が販売されているようなので、目にする機会があるかもしれませんね。

初期のラガディ・アン人形は原作者であるグルエルとその家族による手作りでしたが、その後はドールメーカーによって製作されるようになりました。
年代によってメーカーが異なるため、外見も少しずつ違っています。

写真はApplause and Dakinから発売された、各社の復刻版6体セット。

  1. 1918~1934年
    製造:ボーランド
    (Volland)
    左端・焦げ茶色(または黒)の髪
  2. 1935~1936年
    製造:エクスポジション
    (The Exposition Doll & Toy Mfg.Co.)
    中央右・赤紫の髪・水色の縁取りのエプロン
  3. 1935~1938年
    製造:モリー
    (Molly’es Doll Outfitters,Inc.)
    中央左・茶色の髪・視線が横向き
  4. 1939~1962年
    製造:ジョジーン
    (Georgene Novelties, Inc.)
    後列中央・オレンジの髪・花柄の服
  5. 1962~1983年
    製造:ニッカーボッカー
    (Knickerbocker Toy Company)
    後列左・赤い髪・鼻の横に赤い点
  6. 1983年~現在
    製造:アプローズ(sub licensor)
    (Applause and Dakin)
    後列右・赤い髪・エプロンにRaggedy Annの文字

※他に正式なlicensorのハズブロ社があります。

 

この写真から判断すると、アナベルはニッカーボッカー社製のようです。

事件の発生は1970年ということで、年代も一致します。

 

◎ウォーレン夫妻について

・夫:エド(エドワード)

1926年9月7日生。
第二次世界大戦時に太平洋およびヨーロッパ戦域
にて従軍。
退役後は画家になり、冬の景色や幽霊屋敷の絵を
描いていましたが、後に超常現象研究家へとシフト
しました。
2006年8月23日死去。

・妻:ロレイン

1927年1月31日生。
透視能力を持つ霊媒師としてエドと共に超常現象
を調査してきました。
夫亡き後も、N.E.S.P.Rと共に調査を続けていましたが、
2019年4月18日死去。

・N.E.S.P.R

ニューイングランド・サイコリサーチ協会。
ウォーレン夫妻が1952年に設立したゴーストハン
ティング・グループです。
エド&ロレインの娘ジュディとその夫トニー・ス
ペラが役員を務めています。
アミティビル事件を初めとする10,000件以上の事
件を調査したとされています。

 

◎映画化されたアナベル

ウォーレン夫妻が携わった事件のいくつかは映画化され、「死霊館」というタイトルのシリーズになっています。
そのスピンオフ的作品が「アナベル 死霊館の人形」。

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映画のアナベルはラガディ・アン人形ではなく、リアルな造形のアンティークドールであり、ストーリーも全く別物になっています。

※実際の写真と映画のキャプチャーを比較した動画のリンクを貼っていたのですが、残念ながら見られなくなってしまったようです。
代わりに、前日譚『アナベル 死霊人形の誕生』のトレーラーを貼っておきますので、勇気のある方はぜひ。

赤月

赤月

幼少時代に小泉八雲の「怪談・奇談」や上田秋成の「雨月物語」を読み聞かせてもらってから怪談に興味を持ち、怪談・怪奇小説と中心としたオカルトの探求がライフワークになりました。 その他のオカルトでは、占いや世界のミステリーに興味があります。 サブスキルは絵描き。