ヴォイニッチ手稿には “読める文字” がある!?

読めないヴォイニッチ手稿の読める文字とは?】

ヴォイニッチ手稿に登場するローマ字の謎

①3月らしきもの

ヴォイニッチ手稿といえば、読めない文字で有名ですが、実は読める文字もあることはご存じでしょうか?

 

例えば、こちらのページ。

中央に描かれた魚座らしき絵には、”mars”と書かれています。

これは火星の mars ではありません。
フランス語で“3月”のことです。
他にアイスランド語、スウェーデン語でもそのように言うようです。

魚座の時期はちょうど3月。

ここだけ急に読める単語が出てきたので面食らいましたが、おそらく過去に持ち主であった誰かが書き込んだものでしょう。インクの状態も、他の文字に比べると新しいようです。

3月以外の書き込みも調べてみました。

②4月らしきもの

この山羊のような動物の絵に書いてある文字はどうでしょうか。
非常に読みにくいのですが、先程の3月のような月名だと考えると、”abril”と読めなくもありません。
ところがフランス語で”abril”を調べても出てこないのです。
フランス語で a から始まる月名は、4月の”avril”と8月の”aout”。

フランス語より以前から使われたラテン語の4月を調べてみると、”aplilis”これも違いますね。

“abril”という単語自体をネット検索にかけてみると、なんとカタルーニャ語、スペイン語、ポルトガル語で“4月”を指すことが分かりました。

4月の星座といえば牡羊座、ということはこの絵は山羊ではなく羊でしょうか。
羊というと、一般的にはくるりと巻いた角のメリノ種を思い浮かべますが、歴史が長いのは山羊のような直線的な角を持つジャコブヒツジなのです。

ヴォイニッチ手稿に書かれた文字は読みづらく、素直に”abril”と読んで良いか迷うところですが、この絵が牡羊座を示したものならば、4月を示す単語だと考えるのが自然でしょう。

 

 

③5月らしきもの

続いて、牛の絵。
これは”may”=5月で良いでしょう。
これは英語、ラテン語の他、アゼルバイジャン語、ウズベク語、ショナ語、ズールー語、ソト語、ソマリ語、チェワ語、フリジア語でも使われているようです。

 

 

④6月らしきもの

この男女の絵は双子座と思われます。

双子座の月は6月、英語では”june”、フランス語では”juin”、ラテン語では”junius”、スペイン語では”junio”……

しかし、この絵に書かれている単語はなんでしょう?

最初の文字は j よりも y または m に見えます。

調べてみましたが、6月を意味する単語に、

・j , y , m で始まるもの

・続く文字が o のもの

はありませんでした。

双子座という言葉でも調べてみましたが、こちらも同様です。

可能性として挙げられるのが、

若い = jong オランダ語 ですが、
ここだけ月の名前ではなく、絵の特徴に関する言葉になるというのは納得いきません。

癖のある文字なので判別が難しいのですが、書いた本人は “juin” のつもりだったかもしれません。

 

 

⑤7月らしきもの

続いてこちら。

順番からすると7月、蟹座と思われるのですが、
これは蟹というより海老のように見えます。
実は中世ヨーロッパにおいて、蟹はこのような形で描かれる事がありました。
占星術シンボルを描いた他の古文書にも、おなじみの平たい蟹の絵と共に、海老のような形の Cancer(Crab) が登場しています。

さて、これが蟹座を示すとなると、書いてある文字は7月を意味する単語のはず。
こちらも書いてある文字が判別しにくいのですが、

julho ポルトガル語
julius ハンガリー語

あたりが近いように思われます。

 

 

⑥8月らしきもの

8月の星座は獅子座。
書いてある単語は anyft ?
月名には似たような単語はありませんでしたが、
双子座と同じパターンで

angst=恐れ(ドイツ語)

というものが見つかりました。
これも絵から受けるイメージを書きとめたものでしょうか?

 

 

⑦9月らしきもの


9月の乙女座
・・・のはずですが、これは解読不能です。

何となく読めそうな気もするのですが、
字の癖が強すぎて、ヴォイニッチ手稿の本文並みに
読めそうで読めない文字になっています。

 

 

⑧10月らしきもの


10月、天秤座
octebrs と書いてあるように見えます。
フランス語の octobre でしょうか。
こちらもかなり癖が強いため、
細部が分かりづらいです。

 

 

⑨11月らしきもの


次にくるのは11月の蠍座のはずですが、トカゲのような生き物が描かれています。
尻尾は長く、くるりと丸まっており、サソリをイメージしたように見えないこともないのですが・・・。
下に書いてある単語は noveba でしょうか。

アゼルバイジャン noyabr
ウズベク noyabr

ところで、これはもしかして、蜥蜴(とかげ)座なのでしょうか?
蜥蜴座は1690年にポーランドの天文学者ヨハンネス・ヘヴェリウスが作った星座です。ヘヴェリウス自身は「いもり座」と読んでいたそうですが、現在では蜥蜴座として知られています。

この絵が1690年に作られた蜥蜴座だとすると、以前述べた「ヴォイニッチ手稿は1612年までに作られた」という仮定は間違っているということになります。

1612年とした根拠は、こちらの記事で述べた通り「神聖ローマ皇帝ルドルフ2世が買い取った」という書簡の記述に基づくものであり、ルドルフ2世の存命が1612年までだからです。

果たしてこの絵は蜥蜴座なのでしょうか?
それともヘヴェリウスが名付けるより70年以上も前に、ヴォイニッチ手稿の作者が星々を蜥蜴の形に見立て、ひっそりと書き記していたというのでしょうか?

 

 

⑩12月らしきもの

こちらは、12月の射手座だと思いますが、残念ながら何と書いてあるのかさっぱりわかりません。

最後の方は bre と読めるので、フランス語かとは思うのですが、前半が読み取れません。

11月の方もそうですが、Novembre や Decembre の場合、中間に m があるはずですが、それが読み取れないのです。Nov-bre や Dec-bre のように、書き込み者独自の略語で書かれているのかもしれません。

 

さて、次は山羊座の一月のはずですが、残念ながらこのページは欠損しているようです。裏面にはおそらく二月の水瓶座が書いてあったのでしょうが、もはや内容を知ることは出来ません。

 

【結局、読める文字は何語なのか?】

 

判読できたものを整理してみましょう。

mars フランス語、アイスランド語、スウェーデン語

abril スペイン語、ポルトガル語、カタルーニャ語

may ラテン語、英語、他多数

まったくバラバラですね。。

それぞれの筆跡の特徴を見てみると、

・3月(魚座) と 5月(牡牛座)

・4月(牡羊座)

・6月(双子座) と 8月(獅子座)

・7月(蟹座)

・9月(乙女座)

・10月(天秤座) と 11月(蠍座?) と 12月(射手座)

というパターンに分けられるようです。

仮に、4月、7月、9月が同一人物の筆跡だとしても、少なくとも4人の人物が書いていることになります。

 

★3月(魚座)と5月(牡牛座)に書き込んだのは、フランス語とラテン語を使う者。
フランス語が公用語とされるのは1530年代後半のことで、それ以前はラテン語と併用されていたので、おかしくはないですね。

 

★4月(牡羊座)と7月(蟹座)に書き込んだのは、ポルトガル語を使う人物だった可能性が高い。
9月(乙女座)も同一人物であれば、書き込まれた文字はポルトガル語で9月を意味する”Setembro”なのかもしれません。

 

★6月(双子座)と8月(獅子座)の書き込みは、月名ではないような気がします。
しかし、なぜ素直に月名を書き込まなかったのでしょうか?それとも、私が読み取れないだけで、本当は何語かの月名?
jong はオランダ語、angst はドイツ語ですが、オランダ語は元々ドイツ語の一方言ということなので、この二つの単語を書き込んだのが同一人物であってもおかしくありません。

 

★10月(天秤座)と11月(蠍座?)と12月(射手座)は、上にも書いたように、語尾の bre とその前の綴りが特徴的で、同一人物の書き込みの可能性が高い。
フランス語を使う人物の書き込みだとすると、11月の表記は Novembre になります。

 

もしかしたら、これらの筆跡のいずれかは、マルクス・マルチやアタナシウス・キルヒャーのものであるかもしれません。
もちろん、筆跡の主が判明したところで、ヴォイニッチ手稿の本文が読めるわけではありませんが、この書物が辿ってきた歴史の一端を垣間見ることが出来るなら、それはそれで面白いものです。

赤月

赤月

幼少時代に小泉八雲の「怪談・奇談」や上田秋成の「雨月物語」を読み聞かせてもらってから怪談に興味を持ち、怪談・怪奇小説と中心としたオカルトの探求がライフワークになりました。 その他のオカルトでは、占いや世界のミステリーに興味があります。 サブスキルは絵描き。